2018 . 12 . 07

兄弟姉妹の扶養義務と成年後見制度を知る

兄弟姉妹は扶養しなければいけないのか?成年後見制度は使うべきなのか?親なきあとの話はきょうだいの間でよく話題になります。今回は、扶養と成年後見について行政書士の増田繁男さんに解説していただきました。

Image

増田 繁男 さん  (行政書士・社会保険労務士)

大阪府出身、京都府在住の行政書士・社会保険労務士。障害者のきょうだいの立場であると同時に、障害児の親でもある。行政書士・社会保険労務士の仕事では「障害者の家族支援」をメインに、相続や遺言、成年後見、障害年金など「親なきあと」全般について、相談窓口や講演などを実施している。

「扶養」と兄弟姉妹の扶養義務


 自分の資産や労力だけでは独立して生活を維持できない者に対する援助のことを、「扶養」といいます。扶養義務の程度については「生活保持義務」と「生活扶助義務」の2つに分けて考えることができます。「生活保持義務」とは自分の生活を犠牲にしてでも、自分と同程度の生活を維持しなければならいという義務で、夫婦間や自立できていない子どもに対する親が負うものです。「生活扶助義務」とは自分の生活に余力がある場合に限って助け合う義務で、兄弟姉妹などが負います。民法877条1項には「兄弟姉妹は、互いに扶養をする義務がある」と定められていますが、これは「生活扶助義務」のことを指しています。例えば、結婚していて幼い子供のいる「きょうだい」が、別に生活している障害のある兄弟姉妹が最低限の生活もままならない状況であったとしても、夫や子どもの「生活保持義務」を履行してもなお余力のある場合に、やっと負うのが兄弟姉妹に対する「生活扶助義務」です。夫婦間や親が子に対して負う「保持義務」は空腹の中でもパンをお互いに分け与えなければならないような義務ですが、「扶助義務」は自分が満たされている場合に限って余ったパンを与えなけらばならない義務ということになります。
 従いまして、障害のある兄弟姉妹が生活保護の申請を行った場合に、福祉事務所の職員などが、きょうだいに対して扶養可能か問い合わせをしてきても、「生活扶助義務」を履行できるほどの余力が無ければ、扶養の義務を負うことはありません。自分の生活を切り詰めて兄弟姉妹を扶養する義務はないわけですが、障害のある兄弟姉妹を扶養することに決めた場合は成年後見制度の利用を検討することが出てくるかと思います。
 扶養する場合、成年後見制度を利用しなければならないとか、できれば利用した方がよいというような決まりはありませんので、成年後見制度の利用の要否はきょうだいの任意の判断となります。
 少し脱線しますが、兄弟姉妹を健康保険の被扶養者に入れることは可能です(これまで、兄・姉といった年長者に対しては同居が必要で、弟・妹などに対しては同居の有無は問われませんでしたが、平成30年10月からは、兄・姉も同居の有無にかかわらず、健康保険の扶養に入れることが可能になりました)。

成年後見制度とは



Image

家庭裁判所発行のパンフレット「成年後見制度を利用される方に」より



成年後見制度の具体的な内容を示していきます。

<成年後見とは?> 
 成年後見とは、認知症や知的障害、精神障害などの精神上の障害により、物事の判断が困難になった場合に、本人が法的に有効な契約を行ったり、契約を取り消したりできるように、本人に代わって代理人として法的な支援を行う制度のことで、その法的な支援を行う代理人が、成年後見人です。

<成年後見人の職務>
成年後見人の職務は次の二つです。

① 財産管理
 本人の財産の維持管理を行います。税金の納付や福祉施設等の利用料の支払い、本人の口座から日常生活に必要なお金を渡す、不動産など財産の売却などの金銭面での手続です。

② 身上監護
 本人の生活や健康維持のための支援を行います。施設の入所や病院への入院の手続、療養や介護サービスを受けるための手配などです。日常の直接的な介護や生活援助は行いません。医療行為の同意もできません。

<成年後見制度の種類>
・成年後見制度の種類としては、次の二つです。

① 法定後見
・家庭裁判所に申し立て、後見人等が選任される制度です。
・障害のある人の「きょうだい」などご家族を候補者にすることはできますが、実際に誰が後見人に選任されるかは家庭裁判所の決定になります。
・家族ではない第三者、例えば、司法書士や社会福祉士などの専門職が後見人になる場合もありますし、市民後見人など有志の一般人がなる場合もあります。
・本人のために管理する財産の額などに応じた報酬額が家庭裁判所により決定されます。
(家族が就任した場合でも、裁判所に申し立てることにより、相応の後見報酬の支払を受けることができます。)

② 任意後見
・判断能力が減退する前に後見人を選んでおき、判断能力が減退してくると、「任意後見契約」で決めた後見人が就任する制度です
・任意後見契約は、公証役場で公証人が作成する公正証書により行います。
・判断力が落ちる前の「本人」や、家族が前もって契約により選んだ後見人が就任するので、誰が後見人になるのだろうかという心配がありません。
・後見に取り組むNPO法人などの法人を後見人とする、「法人後見」もあります。
・任意後見の場合は、基本的には、契約により定めておいた報酬額になります。

<後見の三類型>
 後見は、本人の判断能力の度合いにより、以下の3つの類型があります。これは本人やご家族が任意に選択できるものではなく、申立てのときに添付する医師の診断書をもとに家庭裁判所が決定します。

Image

家庭裁判所発行のパンフレット「成年後見制度ー利用をお考えのあなたへー」より。後見は3つの類型がある。



① 補助(補助する人=補助人、補助される人=被補助人)
・本人の判断能力の減退程度は、3類型の中では軽度です。
(家庭裁判所のパンフレットなどには「判断能力が不十分な方」と記載されています。)
・補助人の申し立てに際し、本人の同意が必ず必要となります。
・補助人には、本人=被補助人を助けるため、一部の代理権と同意権と取消権があります。

② 保佐(保佐する人=保佐人、保佐される人=被保佐人)
・本人の判断能力の減退程度は、3類型の中で中度です。
(家庭裁判所のパンフレットなどには「判断能力が著しく不十分な方」と記載されています。)
・保佐人の申し立てに際し、保佐人に代理権を与える場合は、本人の同意が必要です。
・保佐人には、本人=被保佐人を助け、権利を守るため、一部の代理権と、本人のために重要な行為への同意権と取消権があります。

③ 後見(後見する人=後見人、後見される人=被後見人)
・本人の判断能力の減退の程度は、3類型の中で最も大きい(重度)です。
(家庭裁判所のパンフレットなどには「判断能力が全くない方」と記載されています。)
・後見人の申し立てに際し、本人の同意は不要です(判断能力が減退しているゆえ、本人は法的に有効な同意ができないとの前提)。
・後見人には、本人=被後見人の権利を守るため、ほぼ全面的な代理権と、本人のための同意権と取消権があります。

【参考】後見人・保佐人・補助人の選任についての家庭裁判所への申し立てができるのは、本人・配偶者・四親等内の親族(親・子・孫・兄弟姉妹・甥姪・いとこ)、既に選任されている後見人等や未成年後見人、これらの監督人、検察官、市区町村長に限定されています。

《親御さんへ》
子どもが「きょうだい」であるからといって、必ずしも無条件に後見人となることを受け容れているとは限りません。「きょうだい」にはきょうだい自身の固有の生きる権利があります。親子双方の充分な理解が進んでいない間は、親もきょうだい自身も、きょうだいを成年後見人の候補者とすることに即断せずに、むしろこの機会に、子どものこれまでの「きょうだい」としての関わり方や想い・心配などについて相互に確認し合い、お互いがこれからの人生でベストだと思える選択肢を見つけ出すきっかけにしてください。


後見制度を利用したほうが良い場合


 大きく分けると、一つは、施設入所や福祉サービス利用など契約締結の場面があるとき、もう一つは、障害や疾患のある兄弟姉妹が、詐欺などにあう心配が大きい場合などです。きょうだいが後見人になる場合は、兄弟姉妹の障害特性や得意なこと、好きなことなどを理解した上で、きょうだいという家族の立場としてはもとより、後見人という代理人の立場で、契約行為を行ったり、施設や支援者と交渉できるなどの利点があります。ただし、親の死亡などで相続が発生する場合は、きょうだいと兄弟姉妹が相続人になる場合もありますので、その場合は、成年後見人であるきょうだいは、自分自身の相続分と、被後見人たる兄弟姉妹の相続分との関係では、利益相反となることがあります。
 きょうだいが後見人にならず、第三者に後見人になってもらう場合は、対外的にも家族でない第三者が介入することになるので外部から見ても透明性の確保が図れ、きょうだい自身も後見人にある程度任せきることで、きょうだい自身の生活を確保しやすい点があります。また、親の死亡などで相続が発生した場合は、きょうだいと兄弟姉妹が相続人になる場合もありますが、その場合も、成年後見人でないきょうだいは、相続分の面での利益相反とならない利点があります。

後見制度を利用しない方が良い場合


 詳細は後述しますが、後見人制度は途中でやめることができないとか、相応の後見人報酬が継続的に発生するものなので、成年後見制度自体の理解がまだ進んでいなかったり、利用するかどうか迷いが大きい場合は、他の手段がない場合を除き、熟考してから判断した方がよいでしょう。
 成年後見制度を利用しなくとも、その機能の一部を担うような福祉的制度はほかにもあります。例えば、地域の社会福祉協議会(社協)が実施している「日常生活自立支援事業」という制度がありますが、これは、本人と社協との契約により、毎月定額(2千円~3千円程度)の費用で、年金証書や通帳、契約書など重要書類の管理をしてくれたり、定期的に生活支援員が本人宅を訪問し、契約であらかじめ決めておいた生活費を届けてくれますし、日常生活での困りごとの相談援助なども利用できます。ただし、この契約には、本人が、契約内容を理解し、自ら契約締結を完了させられるだけの意思能力は要りますので、障害が軽度の場合には、保佐人や補助人を付けるよりも、この制度で足りる場合も多くあります。このような場合は、差し迫って成年後見を利用しない方がよいかもしれません。

後見人制度を使う場合の準備・手続き・費用と注意点



Image

家庭裁判所発行のパンフレット「成年後見制度を利用される方に」より



<準備>
 成年後見の制度の仕組みなど理解を深めておきましょう。家庭裁判所のウェブサイトに、成年後見の申立書類や記載例など丁寧な説明がありますし、制度や手続に不安なときは、社会福祉協議会や地域包括支援センター、事業所の相談支援員、制度に詳しい弁護士や司法書士、行政書士などに相談してみましょう。

<手続と後見開始までの費用>
 以下の①~⑥の手順になりますが、概ね3~6か月程度の時間が掛かります。
① (任意後見の場合)公証役場で任意後見契約の公正証書を作成しておき、②の手続へ。
② (任意後見・法定後見とも)家庭裁判所への後見・保佐・補助の開始の審判の申立て
③ 後見申立て時に、次の書類などを提出
 申立書、診断書(成年後見用)、申立手数料(800円分の収入印紙)、登記手数料(後見等を受けていることについて法務局で登記されます。2,600円分の収入印紙)、郵便切手(400円程度)、本人の戸籍謄本など
④ 本人の判断能力を確認するため、医師の鑑定が必要な場合もあります(鑑定費用10万円程度)
⑤ 家庭裁判所の審判による後見類型の決定、後見人等の決定・通知
⑥ 法務局で被後見人等であることが登記されます(戸籍謄本には記載されません)

<後見開始後の費用>
 毎月、後見人への費用が発生します。法定後見の場合は、被後見人の財産額に応じて、後見人による財産の管理・維持の状況を踏まえて、家庭裁判所が決定した額ですので、月あたり2,3万円など数万円単位になりますし、年間だと20~30万円以上になります。きょうだいや親など家族が後見人になった場合でも、後見人としての費用請求もできますが、仮に請求せず、毎月0円としようとしていても、家庭裁判所から後見監督人を付けるよう言われ、後見監督人への報酬が、月1万円程度などかかる場合もあります。
 これら後見人や後見監督人への報酬は、本人の財産から支払われることになりますので、本人にまとまった貯蓄があれば、そこから支出ともなりますし、そのような貯蓄もない場合は、本人の障害年金や就労の賃金や工賃の中から支出されることになります。また生活保護の受給者の場合には、自治体によっては、報酬を一部助成してくれる場合もあります。
 任意後見の場合には、任意後見契約で事前に定めた額となります。また、任意後見人の職務遂行状況を監督する任意後見監督人が家庭裁判所により選任されたときには、任意後見監督人への報酬も発生します。

<注意点>
・本人の出来ることも多く、保佐や補助となることが希望の場合は、希望の後見類型として家庭裁判所に審判してもらえるよう、本人のできることなど普段の状況を診断書に反映してもらえるよう、医師にきちんと伝えておくようにしましょう。
・後見人は、本人の亡くなった後の手続などの対応はできません(死亡は後見の終了事由)
(弁護士や行政書士などと「死後事務委任契約」を締結し、生前から準備しておくことも可能です)

家庭裁判所のWebサイトにも資料が充実していますので、そちらもご参照ください。
リンク:家庭裁判所後見ポータルの資料・ビデオ

後見人制度の問題点と課題


 後見は一度開始されると途中でやめることができないので、取り敢えずのお試しや様子見ができないという問題点があります。
 親に後見が必要な場合は、親が高齢な場合も多く、選任される後見人が最期まで関わってくれるかもしれませんが、きょうだいと年齢が近い兄弟姉妹の場合は、後見人のほうが先に亡くなり、後見人が途中で変更になる場合もあるという課題があります。そのため、本人の障害特性や日常を共有する法人スタッフで後見人が引き継がれるよう、「法人後見」での任意後見の選択肢も一考の価値はあります(その場合は、その法人の受任実績や持続可能性など、多様な検討を事前に行うべきです)。

おわりに


Image
 私は、「障害者の家族支援」の一環で、「きょうだい支援」にも取り組んでいます。
活動としては、「京都きょうだい会(https://kyoto-kyodai.jimdo.com)」に参加していますが、今後は、弁護士や税理士、社労士、行政書士などの士業できょうだいの立場の方々で集まり、「士業きょうだい会」を立ち上げたいと構想しています。
 障害者のきょうだいや親などのご家族が、福祉事業所や団体を立ち上げるケースも多いため、「障害者福祉・介護福祉事業所の運営支援」として、開設に向けた法人設立や指定申請、助成金、労務管理なども、ワンストップで対応しています。
 きょうだいが持つ「親なきあと」への不安や悩みに対して、親の立場の方々とともに、「親あるあいだ」から対策していけるような法的・福祉的な支援の在りようを皆で考えていきたいと思います。(「親なきあと」の第一人者である行政書士の渡部伸さんが主宰する、「親なきあと」相談室ネットワークの登録事務所です。)


Sibkoto編集部より
Sibkotoではきょうだいの皆さまの体験談を募集しています。体験談はタイトル、中見出しを含めて2000文字以上の文章とさせていただきます。内容は問いませんが、例えば成年後見制度を利用してよかったこと・後悔していることなどございましたら体験談掲載希望の旨、お問い合わせページ( https://sibkoto.org/contact )よりご連絡ください。

通知

閲覧の確認

閲覧しようとしているコンテンツは、多くのユーザーが違反報告しており、不快な内容が含まれる可能性があります。閲覧を続けますか?