2020 . 06 . 21

KHJひきこもり兄弟姉妹の会 担当者の体験や思い【後編】

KHJひきこもり兄弟姉妹の会の担当者の一人であり、ひきこもりの経験がある深谷守貞(ふかやもりさだ)さん。深谷さんの体験や思い、KHJ全国ひきこもり家族会連合会、KHJひきこもり兄弟姉妹の会の活動についてインタビューしました。【後編】では、暴力的支援業者の問題や、きょうだいの方へのメッセージ等についてまとめました(担当:Sibkoto運営者 松本理沙)


「兄弟姉妹の会」ある参加者の声


兄弟姉妹の会に来ていた、あるお兄さんの話ですが、地方にいる年老いた両親と30代のひきこもりの弟がいました。お兄さんは帰省する度に、本人を責めて働くように説教していたそうです。帰省後に弟さんが両親に暴力を奮うということで「兄弟姉妹の会」に相談にみえました。

「兄弟姉妹の会」に参加をしていくうちに、お兄さんは自ら気がついたんです。今まで自分は弟を責めてばかりいたけれど、自分が東京でこうやって仕事して生活していけるのは、年老いた両親の直ぐ傍で弟が面倒をみてくれるからじゃないか。弟は働いていないけれど、両親の傍で両親の面倒をみてくれているじゃないか。

それで弟さんにそれまで責めていたことの謝罪と、両親を傍でみてくれることの感謝を手紙で伝えました。その後、兄弟の関係が劇的に改善したそうです。それまで帰省の度に口うるさい存在の兄が、一番の理解者になった。そういう安心感の中で尊重されたからこそ、関係性が変わってきたのですね。弟さんが1人で東京まで遊びに来て、「そろそろ兄貴みたいに働かないと。兄貴も大変だと思うけれど頑張れよ!」そう言ってくれたと嬉しそうにご報告を頂きました。

本人にとってきょうだいは一番のライバルにもなるけれど、一番の理解者にもなり得る存在です。親とは違う距離感だからこそ、同じ親の下で育てられたからこそ、きょうだいの中にしか分からない思いがあり、その思いを分かち合える関係になり得ます。このような関わりの中で、本人の何かのきっかけを促すこともあるのです。

人間は困らないと動かないと私も思いますが、エネルギーがない状態で困ってしまっても、動くだけの力がないので潰れていってしまうんです。人間は困らないと動かないというのは、生きるエネルギーが蓄えられている人に対して言えることだと思います。だから「安心・安全の場」において、肯定的な関わりと尊重をもって本人と関わることが大切なんです。

ただ何度も申し上げますが、きょうだいは親代わりにはなれません。きょうだいが本人に寄り添い、肯定的な関わりと尊重をもって関わるためには、きょうだい自身に精神的な余裕がなければ難しいのです。先の例のお兄さんは、「兄弟姉妹の会」を通じて、そのような余裕を抱き、自らの行動を省みて気づきを得て、弟さんに寄り添ったのだと思います。

きょうだいの方へメッセージ


これまで繰り返し申し上げてきましたが、きょうだいの方に対しては、まずご自身の生活を何よりも大切にして、精神的にも経済的にも余力の部分でひきこもり本人や親と関わっていて欲しいのです。その余力の部分というところで「きょうだいなんだし…」と道義的責任に苦しまれる方が多いのですが、とにかく一人で抱え込まないで欲しいのです。

ひきこもりは、ひきこもり本人もそうだけれども、家族もひきこもりのことを抱え込んでしまいがちなんです。きょうだいの方も自分にひきこもりのきょうだいがいるって、周囲に言えない方が多いのです。実際、「兄弟姉妹の会」に来られる方で、「初めてここで話せた」「これまで誰にも話せなかった」と涙を流して訴える方が何人もいらっしゃいます。ひきこもり本人のことを誰にも話せなくて、抱え込んでしまって、それで親が高齢で動けなくなってしまったとか、親が抱え込んでいるので、せめて自分が…と勇気を持ってお問い合わせいただく方が多いんです。

だからこそ、自分の気持ちを吐き出せる場所を一つだけでも持っておく。そして同じ立場のきょうだいたちの分かち合いから、自分自身ができることは何だろうと一緒に考えていく。自分一人だけが悩んでいたのではないという意識は、きょうだい自身にも安心感と落ち着きを促します。それが「兄弟姉妹の会」の役割だと思います。

私は「ケアとは楽になっていくこと」だと考えています。兄弟姉妹の会に参加されることで、少しでもきょうだいの方々が楽になっていって欲しいのです。

ひきこもりは悪いことでも何でもない。自ら人間関係を遮断せざるを得ない程に追い込まれた状態像なんです。そういう傷ついた人に対して「ひきこもりは悪いこと」という意識を持って関わると、外に出させよう、働かせよう、という「~させよう」という働きかけになるんです。これはひきこもり本人にとっては、傷をより深くする関わり方になります。本人は「~させられる」ことに傷ついてきているのですから。ここに気づかないと「~させよう」との働きかけが無理強いになって、本人をますます追い込んで、結果本人も家族も苦しみを積み重ねていくという悪循環に陥るんです。

だから安心してひきこもれる環境の中で、尊重と愛情をもって本人に肯定的に関わっていくことが大切なのです。自分の人生は自分で生きていく訳ですし、自分の思い通りに人を変えることってやっぱり難しいんです。変えるのではなく、尊重と愛情をもって関わっていく。本人を信じていけるように、本人と一番近くで接する家族が疲れないように、家族をエンパワメントしていく。それが、KHJが目指す家族支援の考え方です。親も親の人生を歩んでいくことが大切なのだと思います。

まして、きょうだいの方々は、親とは違う立場と距離感にあります。自分の生活や家族、自分の人生を何よりも大切にして、ご自身の自己実現に向けて生きていって欲しいと思っています。ひきこもり本人を邪魔な存在として捉えるのではなく、ひきこもっている本人とも関わりながら、どうやって自分自身が楽しく生きていけるかを考えてほしいと思います。

「兄弟姉妹の会」に来たことで、少しでも楽になってご自身の日常に帰って頂きたいんです。「兄弟姉妹の会」に来て、同じ立場のきょうだいと分かち合うことで、気持ちを落ちつけて囚われを手放して、様々な気づきを得て欲しいんです。そのために「兄弟姉妹の会」を活用して頂ければと思っています。

最後になりますが「兄弟姉妹の会」に集う皆さまは、皆、自分の生活や葛藤があるにも関わらず、自分の時間とお金をひきこもり本人や家族のために費やして「兄弟姉妹の会」に参加されます。その思いと行動だけで充分に道義的責任を果たしていると私は思うし、何よりも本人や家族のために動かれるきょうだいの方々に、心から敬意を表しています。これからも、きょうだいが少しでも楽になって頂けるよう「兄弟姉妹の会」を継続して参ります。


【プロフィール】
深谷 守貞(ふかや もりさだ)さん

特定非営利活動法人KHJ全国ひきこもり家族会連合会」本部事務局所属 ソーシャルワーカー
上智大学文学部社会福祉学科卒業。社会福祉士。
大学卒業後、社会福祉法人東京都社会福祉協議会に入職。福祉人材確保や住民参加型団体の事務局運営、第三者評価事業の企画等に従事。30代前半で希少難病に侵されるが、発症当初に病因を特定されぬまま精神疾患と誤診を受ける。誤った診断・服薬処方等が高じて事業に従事できなくなり、東京都社会福祉協議会を退職。向精神薬の過剰投与により幻聴・幻覚が生じて外出ができなくなり、更に自身の生きづらさに囚われて2年以上ひきこもる。
KHJ東東京支部「楽の会リーラ」の居場所参加をきっかけに、社会復帰・社会参加に至った。
2014年2月より特定非営利活動法人「KHJ全国ひきこもり家族会連合会」本部において事務局運営、ソーシャルワーク業務等に携わる。「兄弟姉妹の会」担当。


特定非営利活動法人 KHJ全国ひきこもり家族会連合会
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【Sibkoto編集部より】
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