2020 . 06 . 21
KHJひきこもり兄弟姉妹の会 担当者の体験や思い【後編】
KHJひきこもり兄弟姉妹の会の担当者の一人であり、ひきこもりの経験がある深谷守貞(ふかやもりさだ)さん。深谷さんの体験や思い、KHJ全国ひきこもり家族会連合会、KHJひきこもり兄弟姉妹の会の活動についてインタビューしました。【後編】では、暴力的支援業者の問題や、きょうだいの方へのメッセージ等についてまとめました(担当:Sibkoto運営者 松本理沙)
家庭を安心・安全の場にする

『潜在化する社会的孤立問題(長期化したひきこもり・ニート等)へのフォーマル・インフォーマル支援を通した「発見・介入・見守り」に関する調査・研究事業』報告書より。生活困窮者の自立支援窓口への相談者について、50代では「本人の兄弟姉妹」(きょうだい)が増加傾向にあることが示されている。
あるひきこもり経験者がこう言っていました。「我々ひきこもりは『ガソリンの入っていない車』と同じだ。ガソリンが入っていない車を皆、動かそうとして、疲れ果てて厄介者扱いする。誰もガソリンを充たすことに気がつかない!」
私自身のひきこもり経験からも、この言葉は真意を得ていると思います。本人を責め立てて、奮起を促すことは、ガソリンの入っていない車を動かそうとすることと同じなのです。
ではガソリンを充たすためには、つまりひきこもることに費やすエネルギーを生きるエネルギーに変えていくということですが、これは周囲が肯定的な関心を持って、本人を尊重して関わっていくということなります。
KHJは家族会ですから、家族が肯定的な関わりを通じて本人を尊重し、本人の生きたいという欲求、つまり生きるエネルギーを蓄えられるような家庭にしていく。そういう理念で家族会を推進しています。
ここで大切なのが「家庭を安心・安全の場にする」ということです。「安心・安全の場」というのは、ひきこもっていても批判や非難をされないことです。そして、ひきこもっていてもかけがえのない存在であることを、愛情をもって関わっていくことです。
ひきこもりは恥でもなんでもない、自ら人間関係を遮断せざるを得ない程に追い込まれた状態像です。だから家庭の中で、批判や非難をされない環境と尊重と愛情を持っての関わりの中で、少しずつ本人の苦しみを癒していくようにする。尊重されるということは、自己肯定感や自尊感情の回復に関わってきます。
逆説的ではありますが、安心してひきこもれる環境があってはじめて、ひきこもりの苦しみから癒えていくことになります。こうやってひきこもるエネルギーを、生きるエネルギーに変えていくのです。
生きるエネルギーが蓄えられてくると、自ら動き出す本人もいます。ここで大切なことですが、親は愛情を与えられるけれど、きっかけは与えられないんです。きっかけは大抵、第三者が与えるものなのです。
KHJではピアサポーターといって、ひきこもりの当事者・経験者、家族が、訪問支援や居場所という第三者との交わりの場で世話人を行う活動をしています。このきっかけ、外に出るきっかけとか、居場所に行ってみようとか、そういうきっかけですが、離れて暮らすきょうだいがきっかけを促すこともあるんです。
親代わりに本人を責めるのではなく、本人の意向に寄り添う。例えば帰省した際に、本人の趣味に寄り添う、本人の話を聞く。きょうだい自身の生活の世間話や雑談をする。そういう中で本人がきっかけをつかむこともあるのです。