2020 . 06 . 21
KHJひきこもり兄弟姉妹の会 担当者の体験や思い【後編】
KHJひきこもり兄弟姉妹の会の担当者の一人であり、ひきこもりの経験がある深谷守貞(ふかやもりさだ)さん。深谷さんの体験や思い、KHJ全国ひきこもり家族会連合会、KHJひきこもり兄弟姉妹の会の活動についてインタビューしました。【後編】では、暴力的支援業者の問題や、きょうだいの方へのメッセージ等についてまとめました(担当:Sibkoto運営者 松本理沙)

深谷 守貞 さん (特定非営利活動法人 KHJ全国ひきこもり家族会連合会)
「特定非営利活動法人 KHJ全国ひきこもり家族会連合会」本部事務局所属 ソーシャルワーカー。社会福祉士。 (※プロフィールの詳細は、記事末尾をご覧下さい。)
「引き出し屋」という暴力的支援業者の問題
「引き出し屋」と呼ばれる自立支援ビジネスがあります。家族と契約をしたという名目で、ひきこもり本人を無理やり部屋から暴力的に引き出して、施設に収容して自立を促すという業者が存在するんです。「半年で本人を自立させます」等を謳い文句に、ホームページ等で広報をしています。
実はきょうだいがこの「引き出し屋」に連絡をして、本人を無理やり施設に収容させるケースがあるんです。これは親の場合もそうなんですけれど、こういう業者は家族の先取り不安につけ込むことが多い。「親亡きあとどうするんですか? 我々に任せれば半年で就労までさせますよ」等と脅して、高額な料金と引き換えに本人を家から無理やり引き出すんです。親もきょうだいもそんなことをしたくない、けれども支えていくのはもう限界だから…と、高額なお金を支払って本人を業者に引き渡してしまう。
私も、こういう「引き出し屋」の施設から脱走してきた方等からお話を伺うことがあります。
半年で800万円を支払って入所させられたけれど、自立支援プログラムなんて何もなかった。本人(入所者)の希望なんて無視されるし、業者によっては強面の監視員が絶えず見張っていて、殴られたり、入所者間でいじめがあったりするそうです。就労指導との名目で、低賃金で働かせられることもある、そんな酷い業者もある。「引き出し屋」という暴力的支援業者は自立支援ではなくて、強制指導を強いているのが実態のようです。
ひきこもり本人は、無理やり「~させられる」ことに傷つけられていますし、こういう強制的指導は更に本人を追い詰めることになります。「引き出し屋」の施設の利用は、本人にとっては全く逆効果だと思うんです。事実、施設から逃げ出した方々の中にはPTSDを発症したり、入院をしたりするケースもあります。
人間関係を遮断せざるを得ない程に追い詰められた状態像であるひきこもりが、ますます他者に対して不信感を募らせ、傷つけられるだけなんです。これは支援ではないし、ましてケアでもない。
何より問題なのは、親子・家族関係が悪化したり、断絶してしまうこと。本人は、暴力的支援を行うような業者に売り飛ばしたという恨みを抱いて、家庭や社会に戻ってきます。人間関係の礎となる家族関係に不信感を抱いて、まして恨みつらみを抱えながらその後の人生を生きていかなければならない。これは本人にとっても家族にとってもとても苦しいことなんです。
業者は自立の見込みがなければ、更にお金を要求します。お金が払えなければ、施設を退所させられます。引き出した時よりももっと酷く傷つけられて、本人は家に帰されるのです。親やきょうだいに恨みを抱きながら元の家に戻されます。
なぜ親やきょうだいが、こういう暴力的支援を行う「引き出し屋」に高額なお金を払って依頼するのか、それは、親やきょうだいがどこにも相談できずに抱え込んでしまったからでもあるんです。これは自戒を込めて言うのですが、安心してひきこもりのことを相談したり、話せたりする場がとても少ないという現状があります。高齢の親の中には「家族の恥を曝したくない」と抱え込むケースも見受けられます。
また行政に相談に行っても「本人を連れて来ないと話にならない」と言われたり、保健所に相談に行ったら「お母さん、育て方を間違えちゃったかな?」と笑って言われたり、そういうことで行政に不信感を抱いて相談することを諦めてしまうんです。事実、KHJの調査では、医療・相談機関に傷つけられた経験があると回答した本人・家族は4割強ありました。
せっかく支援者につながっても、ひきこもりは特に緊急性の高い問題を起こす訳でもないし、支援者も「見守りましょう」という言葉で放置したりする。家族も抱え込まざるを得なくなり、相談を諦めてしまったりする。こうして年月が経って、親も高齢になり支えきれなくなる。きょうだいも親亡き後のことを考えずにはいられなくなる。こういう先行きの不安につけこむのが「引き出し屋」なのです。
「引き出し屋」に老後の資金を費やして、子どものためと思って、心を鬼にするように業者の言いなりになって、それで契約をしてしまう。本人は無理やり引き出されるので、親や家族に不信感を抱いて、お金が尽きると家に戻される。結果、就労には至らずに病院通いになったり、ますますひきこもってしまったりする。
業者にクレームを入れても、親の育て方のせいにされ、金を払えばまた施設で面倒をみると追い立てられる。金の切れ目が縁の切れ目と言わんばかりで、家族は泣き寝入りするしかない、そういう実態があるんです。
また本人の家庭内暴力に手を焼いて、業者を頼るケースもあります。暴力というのは必ず因果関係があって、知らず知らず家族が本人を刺激している場合が多いんです。また、暴力は相手がいるとエスカレートします。
KHJでは暴力が始まったら、とにかく安全な場所に逃げるように家族会で伝えています。人は無機物相手には長く暴れられません。物理的に距離を置いて、暴力の引き金になる言葉や態度を省みながら、双方のケアにあたっていくということを学習会や月例会で学んでいきます。もちろん兄弟姉妹の会でも、そのようにご提案しています。
引き金を引く言葉としては、本人に否定的な関心を示したり、本人が尊重されなかったり、ということがあります。他にも見受けられますが、相談の中で暴力に結びつくことを共に丁寧に探っていくのです。
しかし家族会にもつながっていない、行政にも相談していない、相談を諦めた、そういう地域で孤立している家族は、どうして良いか分からなくなってしまうんです。そんな時にネットで「引き出し屋」のことを知って、高額なお金を払って契約してしまうというケースがあるんです。
暴力があった時に一時的に冷却期間となるような制度も、とても使い勝手が悪くて、本人や家族のためにもならないように思います。町内会などの公民館は火事で焼け出された人が一時的に休息できる機能がありますが、家庭内暴力では利用できないし、家族も近隣に知れ渡ることを恐れて利用を躊躇してしまうでしょう。結局は、一時的にホテルに避難せざるを得なくて、こういう実態も行政に求めていくことだと思っています。
兄弟姉妹の会でも、「引き出し屋に依頼を考えたが、その前にKHJに相談しようと思った」とお問い合わせを頂いたことが何度かありました。しかし一介のNPOですし、広報力も大きいとは言えないので、KHJの存在を知らないきょうだいも多いはずなんです。シブコトさんをはじめ、マスコミ等の取材を通じて、少しでもきょうだいの方がお問い合わせできるように努めたいと思っています。