2020 . 06 . 30

調査協力のお願い「障害者のきょうだいが家族に対して行うケアに関する現状と課題」

2020年6月から、「障害者のきょうだいが家族に対して行うケアに関する現状と課題」という研究課題について、オンラインで匿名のアンケート調査を実施します。今回の研究プロジェクトに携わる4人が調査に込めた思いや経緯について、まとめました(担当:Sibkoto運営者 松本理沙)

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有馬靖子さん・萩原真由美さん・滝島真優さん・松本理沙  (SLN研究プロジェクト)

2019年度、有馬(きょうだい支援を広める会)萩原(カンザス大学)滝島(目白大学)松本(北陸学院大学)の4名で、アメリカのSibling Leadership Network(SLN)研究プロジェクト日本チームを結成。2020年度、きょうだいを対象とした大規模なアンケート調査を、日本において約10年ぶりに実施し、国際比較研究を行う。
写真はオンラインミーティング時のスクリーンショット。左上:萩原、右上:松本、左下:滝島、右下:有馬。

※記事では、有馬さんを「靖子」と名前表記しています。きょうだい支援の会の運営者に同姓の方(有馬桃子さん)がいらっしゃることから、混同を避けるために行っています。

研究プロジェクト立ち上げのきっかけ


靖子 私には、脳性麻痺による四肢体幹麻痺(身体障害)、知的障害、てんかん、加齢による嚥下障害のある妹がいます。重症心身障害児・者と分類される障害です。私がきょうだい支援に関わるようになったのは1991年、29年前のことです。日本に古くからある会で、『きょうだいは親にはなれない…けれど』(ぶどう社刊)という本の編集の中心を担ったのが最初の活動です。
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靖子 その後、自分たちの欲しいきょうだい支援を模索して悶々としていた1997年10月に、インターネットを通してアメリカのきょうだい支援プロジェクトのドナルド・マイヤーさんに出会いました。1998年3月に同志とともに大人のきょうだいのための「きょうだい支援の会」を立ち上げ、同じ年の8月にマイヤーさんに会いにシアトルに行きました。マイヤーさんには2001年、2005年、2008年、2019年3月と日本に来ていただきましたが、2019年のときは日本の後に台湾に行くというアジアツアーでした。これは、2016年に「きょうだい支援を広める会」をFacebookで見つけてくれた台湾のキーパーソン邱春瑜(Chun-Yu Chiu)さんとの出会いで実現したものです。

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2019年3月、台湾の宿泊ホテルの前での写真。右からChiuさん、マイヤーさん、靖子さん。



靖子 2019年6月に、Chiuさんからアメリカのカンザス州在住の萩原真由美さんを紹介されました。萩原さんが2019年8月初めに日本に一時帰国された時にお会いして、今回の研究の話をお聞きしました。台湾・韓国・日本合同で大人のきょうだいに関する研究をしないかというお誘いでした。アメリカのSibling Leadership Network(シブリング・リーダーシップ・ネットワーク)の関係者で行うものです。

萩原 私は、妹がルビンシュタイン・テイビ症候群による知的障害を持って生まれてきたことがきっかけで、アメリカで特別支援教育を学ぼうと決め、学士課程から博士課程までを修了しました。機会がある度に、障害を持つ子どもから大人までの、学校や地域でのインクルージョンをきょうだいの視点から研究し、発表をしてきました。しかし、日本にいる妹のおかげで「きょうだい・家族視点」を経験できているのに、日本の関係者との繋がりが今まで全くありませんでした。

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2019年5月、大学院の修了式のときの写真。右から萩原さん、萩原さんの妹さん。



萩原 アメリカでSibling Leadership Networkを知り、台湾できょうだい支援を活発に行っているChiuさんと出会いました。そこで、靖子さんの話を聞き、繋がりを作っていただきました。2019年8月に初めてお会いした時の靖子さんの話にとても感銘を受け、たくさん学ばせていただきました。

靖子 私はSibling Leadership Network 発足時からメーリングリストには参加し、その動向を常に気にかけてはいましたが、隔年で開催される会議に参加することはしていませんでした。しかし、2007年にニューヨークで開催されたYAI/National Institute for People with Disabilities (NIPD)主催の国際会議で、障害者の家族が親亡き後の障害者の生活に関する計画を立てることを後押しするプログラム『The Future Is Now 将来は今』を知りました。このプログラムをすぐに日本に紹介したいと思ったのですが、賛同者が得られず何年もお蔵入りにしていました。けれども2014年から翻訳作業を始め、2016~2017年にきょうだい支援の会の例会参加者の協力を得てきょうだいだけを対象として試行してみました。

私は、研究よりは実践をという立場を貫きたくて、限られた時間の中で自分が研究に乗り出すつもりはないという立ち位置で過ごしてきました。しかし『The Future Is Now 将来は今』が開発されるきっかけとなった大人のきょうだいを対象とした研究は日本でも絶対必要であるとはずっと思っていました。ですから、萩原さんからお誘いを受けたときに、この研究に関わることには何の迷いもありませんでした。

萩原 靖子さんには日本で研究プロジェクトを立ち上げるメンバーを募っていただき、これまた素晴らしい日本のきょうだい研究者に出会えて、「やっぱり兄弟姉妹の障害って影響力が大きいな」と改めて実感しました。これからも、日本のきょうだい研究の一端を担い、アメリカから輸入するばかりでなく、日本をはじめアジアからも活発に研究や活動を発信していく手伝いができればと願います。

靖子 私はずっと、日本のきょうだいの抱える悩みの地域による違いというような論文を誰かが書いてくれないかなと思っていたのですが、この研究が実現すればそれが実現するかも?なんてことも考えています。

きょうだいが関わらなくても済むように政策は進んでいるという話もあるのですが、地方によっては施設に入るのに多額に寄附金を要求されたり、そもそも福祉のお世話になることを良しとしない風土が残っていたりと、きょうだいの現状はそんなに楽観できるものではないと思っています。超高齢化社会では、介護の人手不足が起きると予測されていますし、現在の高齢者福祉でも人手不足からきている悲しい現実があったりします。

この研究プロジェクトを立ち上げるためには、倫理審査の関係から、日本在住で大学に所属する方の協力が必要でした。そこで、きょうだい支援を広める会の活動でいつもお世話になっている滝島さんと松本さんにお声かけして、4人の研究プロジェクトチームが立ち上がりました。

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2019年3月、ドナルド・マイヤー氏日本招聘プロジェクトのスタッフの集合写真。右から4番目から順に、靖子さん、マイヤーさん、滝島さん、松本。



滝島 私も自閉症の弟の姉というきょうだいという立場で、栃木県で子どものきょうだいの支援活動を続けています。同じ県内でも情報格差、社会資源の違いを痛感していますので、今回このお話を頂いた時に、国内のきょうだいの生活の実態を知り、地域の実情に応じてニーズを把握することは非常に意義深いと感じました。

また、以前にきょうだいの実態調査(*)が為されたときから10年近くが経過しています。この10年で社会情勢も大きく変わりましたよね。障害のある兄弟姉妹だけではなく、育児や親の介護などダブルケア、トリプルケアを同時に担うきょうだいも少なくないはずです。今こそ、きょうだい支援を家族支援の1つのメニューとして位置づけていくことが必要で、そのためには実態把握がかかせないと思います。

*吉川かおり他(2008)「障害のある人のきょうだいへの調査報告書 障害者の家族支援を目指すための調査研究 ―特に支援体制が遅れているきょうだいへの支援を視野に入れて―」財団法人国際障害者記念ナイスハート基金
https://niceheart.or.jp/jigyonaiyomenu/kazokusien/pdf/hohkokusho_kyoudai.pdf

*河村真千子(2012)「きょうだいの文化的・生活実態調査(日本)の報告」東京大学大学院経済学研究科READ
http://www.rease.e.u-tokyo.ac.jp/read/jp/archive/statistics/leaf121105.pdf


松本 私には、重度の知的障害、自閉症、てんかんのある弟がいます。主に京都と北陸エリアできょうだい支援の活動に携わってきました。また、Sibkotoシブコトの運営にも携わっています。私は2013年にSibling Leadership NetworkのConferenceに参加した経験があり、今回の研究に携わることができて光栄に思っています。

靖子さんからこのお話を頂いた時、特に、地域による違いがあるというお話に共感しました。実際、きょうだい会の活動の中で出会うきょうだいの方から話をお聴きすると、きょうだいの生活実態の地域差は大きく、調査研究の必要性を感じてきました。今回の国際比較研究が実現すれば、今後の地域比較研究の足掛かりになると考えています。

また、活動の中で、障害のある兄弟姉妹のケア役割を親や支援者等の周囲がきょうだいに対して過剰に求めたことで、きょうだい自身が希望していた進学や就職、結婚、出産などを諦めざるを得なかったというお話を何回も聴いたことがありました。社会福祉制度の不備や周囲の意識によってきょうだいが現在進行形で深刻な状況にある事例、将来深刻な状況に置かれる可能性が高い事例は、決して少なくないと考えています。Sibkotoにも、深刻な状況にあるきょうだいからの投稿が多く寄せられています。

きょうだいの実態を調査することで、きょうだいが置かれている状況の課題解決を目指したいと考えています。滝島さんもおっしゃるように、家族支援の中で、きょうだい支援も重要であることを改めて示したいと考えています。

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