2019 . 04 . 19
遺伝カウンセリングを知ろう
障害者の兄弟姉妹=きょうだい児にとって、兄弟姉妹の障害や疾患が遺伝してしまうものなのかはとても気になるところですが、遺伝についてのお悩み相談の専門家が認定遺伝カウンセラーです。今回は遺伝にまつわる相談を日々行っている認定遺伝カウンセラーの秋山さんに遺伝カウンセリングや遺伝カウンセラーの仕事についてお話を伺いました。

秋山 奈々 さん (認定遺伝カウンセラー)
千葉県こども病院のこども・家族支援センター/遺伝診療センターに勤務する認定遺伝カウンセラー。先天的な疾患や障害を持ってきた子どもやその親御さん、兄弟姉妹からの相談を中心に年間約400件のカウンセリングを行っている。
遺伝カウンセラーという仕事

遺伝カウンセラーというのは簡単に言うと「遺伝についてのお悩み相談窓口」ということで、遺伝にまつわる様々なことをやっています。私が勤務しているのがこども病院なので、疾患や何かしらの症状のある患者さんが子どもの場合が多いですが、ご両親から次の子はどうしようかという相談を受けたり、きょうだいの立場にあたる子にはご両親が説明しきれない部分を代わりに説明をしたり、場合によっては疾患をもつご本人へのお話に対応しています。その中できょうだいの立場にあたる方から兄弟姉妹の障害が自分の子どもに遺伝するかという相談を受けることもあります。また、患者さんが遺伝検査を受ける前に検査の位置づけやその検査でわかること・わかってしまうことをご家族に事前に説明したり、検査の結果をお伝えしたり、検査の結果によってはご両親の検査も考えなくてはいけない場合もあるのでその説明をしたりしています。
検査結果や診断名が分かる場面では、やはり色々な思いを持つご家族がいらっしゃいます。なかなか診断の情報についていけなかったり、この状況にどう適合していけばいいかという中で、家族の成り立ちというか関係性を一緒に支えていくというサポートもしていきます。家族のスピード感と医療者のスピード感は必ずしも一致するわけではないので、時間をかけて考えることができる場面では一緒に話を聞きながら、ご家族は今こういう考えなのでもう少し待ってあげられませんか?とかこういうペースで治療を進められませんか?などと医師に提案したりしています。
遺伝性の疾患の場合は、診療科をまたいで症状が現れることが多いので、そのつなぎというかまとめる役割も担うことがあります。遺伝性の疾患と診断されたけれど、その症状として心臓の治療も必要とか他の臓器もチェックをしておいた方がよいときには、心臓のことは循環器の医師に、耳のことは耳鼻科の医師に診てもらうのですが、もとは遺伝性の疾患なので遺伝カウンセラーや遺伝科の医師がその患者さんの担当となって情報や方針をまとめたり、逆に各診療科に患者さんや疾患の情報を伝えたりしています。
「認定遺伝カウンセラー」という資格
遺伝カウンセリングを担当するの資格の一つとして「認定遺伝カウンセラー」があります。これは国家資格ではないのですが専門の学会が認定している資格で、医師で言えば専門医の認定と同じ扱いになっています。認定遺伝カウンセラーの資格を得るためには現在では大学院で遺伝カウンセラー養成課程を修了する必要があります。養成課程では遺伝や疾患のことが関係する臨床遺伝という領域や倫理についても学び遺伝カウンセリングについては座学と実習を行います。
この課程を修了すると修士号を取得できますが、これだけでは資格を得られずさらに認定試験を受ける必要があります。試験では筆記試験と面接、口頭試問を行います。口頭試問というと伝わりづらいかもしれませが、いわゆるロールプレイですね。試験官がクライアント役をやり遺伝カウンセリングの場面としてやりとりをするという試験を行います。その試験に合格してやっと「認定遺伝カウンセラー」と名乗ることができます。この認定遺伝カウンセラーの資格がなければ遺伝カウンセリングをしてはいけないというわけではないのですが、これだけの過程を経て取得できる学会認定の資格ですので、安心してご相談いただければと思います。
現在、認定遺伝カウンセラーは全国で約250人いて、私のように病院に勤務している方が多いですが、検査会社で遺伝子検査や染色体検査に関わっていたり、製薬会社などで医師に向けて遺伝性疾患の啓発活動をしている方もいます。あとは、大学等の教育機関で後進の育成や学生の教育に携わっている方もいます。
遺伝カウンセリングの窓口・費用・準備

・相談窓口:病院に遺伝カウンセリング外来や遺伝相談外来という名前の外来があればそちらに行っていただくか、全国遺伝子医療部門連絡会議が遺伝子医療体制検索システムを運営していますのでそこで遺伝カウンセリングをやっている病院を検索することも出来ます。少しお堅い名前と内容ですが(笑)。あとは普通に「地域名」×「遺伝カウンセリング」で検索してもらって見つかったところに電話をかければお話は聞いてもらえると思います。
・相談の時間と費用・回数:1回の相談にかかる時間は大体1時間から1時間半くらいです。回数については相談される方が納得するまでとなりますので、1回の相談で終わりという方もいれば何回か重ねる方もいらっしゃいます。費用については病院によっても扱いが異なりますが、大半のところが自費診療なので初回だと1万円程度すると思います。健康保険が適用されて通常の受診と同じ形になる場合は初回で1,500-2,000円程度だと思います。
・相談するにあたって:不安に思うことがあれば気軽に相談をしてほしいですが、やはり情報がある場合と漠然としている場合では進め方が違ってくるので、もし分かるものがあれば教えていただきたいですね。親や兄弟姉妹からの遺伝が心配であれば、分かる範囲でいいので、その疾患の名前やこういう風に診断を受けているなどを事前に情報を集めておいていただけるととても助かります。染色体検査や遺伝子検査の結果のコピーがあればなお良いですね。もしもらった情報の中で遺伝性の疾患だとわかった場合は遺伝する確率を高く見積もりとこれくらい、低く見積もるとこれくらいになりますとお話できることもあります。
悩んでいる方へ

遺伝についての相談というと敷居が高く感じるかもしれませんが、私たちとしてはちょっとしたことでも気軽に相談してほしいと思っています。例えば、テレビで障害や疾患のことを見て自分や自分の子ども・兄弟姉妹がそれに当てはまっているかもしれないけどどうなんだろう?とか自分の祖母も母も乳癌で芸能人が遺伝性の乳癌の予防のために手術を受けたとニュースを見たのだけれど私もそうする必要があるのか知りたいとかそういった漠然としたことでもいいので、もし不安があるなら一度相談しに来ていただければと思います。私が勤務する千葉県こども病院でも「こども」と付いていますが遺伝の相談については大人の方でも相談を受け付けていますし、保険診療の中で対応しています。他の遺伝カウンセリングを提供している施設でも些細なことや漠然とした内容でも相談に乗ってくれると思います。
きょうだいの立場の方からの相談ですと、兄弟姉妹の病気が何かわからないけど何かの病気らしい、それが遺伝するのかを相談したいという事からスタートする場合もあります。遺伝カウンセリングを利用すると情報や感情を整理したりすることができますし、相談して安心したとか前向きになれたという声もいただいていますので、何か不安に思ったら利用していただきたいです。