2019 . 01 . 18
きょうだい児のつらさから考える家族支援
障害児の兄弟姉妹、きょうだい児。きょうだい児には、周囲には理解しづらい困難があるといわれます。健常に(定型発達として)生まれてきたきょうだい児への支援、障害児を抱える親への家族支援について、吉川かおりさんに伺いました。

吉川 かおり さん (明星大学教授)
明星大学教授。障害を切り口に文化や社会、価値観を検証する「障害学」が専門。障害がある人の家族やきょうだいの会に関わり、家族支援のためのプログラムも開発している。著書に「発達障害のある子どものきょうだいたち-大人へのステップと支援」などがある。
きょうだい児の見えづらい生きにくさ
いわゆる ”きょうだい児” は障害のある兄弟姉妹と一緒に生活しているために1人の子どもとしてのニーズが無いものとされてしまい、普通の子供としての普通の発達を認めてもらえない・サポートをしてもらえないことが多く、それが生きていく上での困難に直結してしまいます(具体的な例を知りたい場合は「きょうだい―障害のある家族との道のり」を読むことを奨めています)。困っているときに困っていると言ってはいけなかったり、自分のことだけやっているとわがままだと言われたりしてしまいがちですし、周囲から「スーパーチャイルド」だと思われてしまい高いハードルを課され、そのハードルを超えられなかったときに自分で自分を責めてしまう。そうすると自己評価が低くなってしまいます。
例えば、母親が夕ご飯の炒飯を作っているときに障害児が花瓶を割って水浸しになりました。そこにきょうだい児がいるとちょっとこの炒飯を炒めておいて、花瓶を片付けるからってなりますよね。それで8歳とか10歳の子が一生懸命炒飯を炒めるんだけど、うっかり焦がしてしまう。そうすると花瓶を片付けて戻った母親は「どうするの?あなたのおかげで夕ご飯が食べられなくなったじゃない!」って大抵の場合は言ってしまいます。でも、これはお金を払って仕事をしてもらっているホームヘルパーには言っていいかもしれませんが、小学生に言う言葉ではないですよね。小学生が大人と同じ責任を担う ”にわか” ホームヘルパーをやらされているわけです。
もう1つ例を挙げると、障害児が周りの人からいじめられていたとき、きょうだい児は、かばいに行きたい。でも怖い。という両方の思いが頭の中を駆け巡ります。そうやって逡巡しているうちにいじめの場面が終わってしまったとしましょう。それをたまたま近所の人が見ていて「お子さんいじめられていたわよ、きょうだいはね、見てただけだったわよ」なんて聞くと、お母さんお父さんは烈火のごとく怒ります。でも、きょうだい児の方だって、助けてあげられなかった(弱虫の)自分を責めてすごく落ち込んでいるのに、親からも責められると、踏んだり蹴ったりの状態になってしまう。これも普通であれば大人が果たす役割をきょうだい児が ”にわか” 権利擁護者として振る舞うように期待されている例です。
このように、きょうだい児が ”にわか” ホームヘルパー・ ”にわか” 権利擁護者・ ”にわか” ガイドヘルパー・ ”にわか” カウンセラー・ ”にわか” ショートステイ事業者・ ”にわか” 家庭教師などの、本来は大人が果たすような役割を子どものうちから果たしていかなきゃいけないことが、生活の中でたくさん起こってくるのです。これは子どもの健全な発達にとって大きな重荷になります。やっぱり小学生の時から他人のこと(世話)を気にする生活はおかしいということをみんなにわかってほしいです。
子どもが子どもらしく育っていない「アダルトチルドレン」の5つのタイプ

きょうだい児などの、子どもが子どもらしく健全に発達しているかということについて私は、アダルトチルドレンの5つのタイプを基準として理解するようにしています。アダルトチルドレンとは、子どもが子どもらしく育つことのできなかった家庭、つまり「機能不全」家族で育って大人になった人(Adult Children of Dysfunctional Family)という意味で使われ、次のような5つのタイプに分類されます。
ヒーロー:優等生であり家族の誇りとなるような行動をとることで自分の存在価値を得ようと頑張るタイプであり、疲れていても休めない、完璧にできない自分を責めるといった傾向がある。
身代わり:家でも学校でも何かとトラブルを起こすことで、家族の中にある葛藤や緊張から目をそらさせる役割をしているタイプであり、内面にある寂しさやつらさを誰にも言えずに行動にあらわす傾向がある。
いなくなった子:ほめられるわけでも問題を起こすわけでもなく、目立たずに存在を忘れられたかのようにしているタイプで、目立たずにいることで自分が傷つくことから身を守っているものの、孤独感を強める傾向がある。
道化師:おどけた態度やしぐさで家族の緊張を和らげ、場を和ませる役割をするタイプで、自分の辛さをはっきり言葉にすることができないという傾向がある。
世話役:小さい時から親の面倒をみたり、愚痴や相談を聞いたりとカウンセラーのような役割を果たし、妹や弟の保護者役になったりするタイ プで、自分のことはいつも後回しにしているため自分の感情やしたいことがわからなくなる傾向がある。
(財団法人国際障害者記念ナイスハート基金 『障害のある人のきょうだいへの調査報告書』(2008) より)
これらのタイプを1人で複数持っているとか同じ人でも年齢によって入れ替わってくるとか言われているので、私はこの子は今はこの傾向が強いな、という見方をしています。今は身代わりタイプでもかつてはヒーロータイプだったりしますから。
親や学校の先生、周囲の大人には、こういった機能不全家族で育った子どもの特徴をきょうだい児が出していたときは、それを助長しないように関わってくださいとお願いしたいです。ヒーロータイプで苦しいのに、真面目で責任感強いからもっともっと役割を引き受けさせちゃうみたいなことをやると本人の生きづらさを助長するだけなので、その子の家庭背景を踏まえた本質を見て関わり方を考えてあげてほしいと思います。
きょうだいたちは困っていても相談しちゃいけないと思っている人が多くて、その背景には、親に手伝ってほしいことや相談したいことがあってもお前は健常児なのになぜできないのかと怒られ相談してはいけないと思っていたりしますから。そういう子どもには、困っている時に適切に相談するスキルを身に付けられるように(なおかつ、自尊感情を肯定的に保てるように)関わってあげてほしいのです。
子どもが子どもとしていられる場所とか気持ちを吐き出す場所があるということはとても大切で、小さいときからケアしておかないと思春期に精神疾患を発症したりします。正確な数値はありませんが、体験的にはきょうだいの精神疾患発症率は高いですよ。また、学齢期だと周囲に人の目がまだありますが、大人になると仕事の相談はするけどそれ以外の人生相談ってなかなかしないですし、家族背景にまで立ち入ったアドバイスもしてもらいにくいですから、支援を受けにくくなると思います。